ISSAC DELGADO

Versos En El Ciero

2002 [CARAMBA CRACD-164]
 5年ほど前のこと、フロリダに住むキューバ音楽好きの知人が、大手新聞の記事の一部を何だか嬉しそうにメールしてきたのを覚えている。それはイサック・デルガドの当時の新譜『OTRA IDEA』が米国RMMで制作されたという出来事からの、米国キューバ間の文化交流の復活を報じるものだった。今でこそキューバのミュージシャンが米国で働くことは、多少の弊害はあってもそう珍しいことでは無くなったが、「現在のキューバ」に飢えていた米国のラテン音楽ファンにとっては、当時にしてみればちょっとした一大事だったに違いない。
 そんな「開拓者」イサック・デルガドのキューバ録音の新譜には、ロランド・ルナ(p)、アレクサンデル・アブレウ(tp)、エフライン・リオス(tres) といったシーンで最も信頼感あるキューバのミュージシャンたちに加えて、ルベン・ロドリゲス(b) や、ラルフ・イリサリー(timbales)、ロベルト・キンテーロ(bongo)、アルトゥーロ・オルティス(synth) ら、セイス・デル・ソラール〜ティンバライエ周辺のニューヨークの腕利きたちが参加している。ラテン・ベーシックを熟知しながらクリエイティビティを発揮できる、サルサ、コンテンポラリー・キューバンのベスト・キャストの新パターンを先んじたといって良いだろう。
 このアルバムで最も目に付くのは、イサックが取り上げている曲の数々。今回ゲストとしても参加しているシルビオ・ロドリゲスの他、パブロ・ミラネス、サラ・ゴンサレス、ノエル・ニコラから、ペドロ・ルイス・フェレール、ヘラルド・アルフォンソ、フランク・デルガド、アマウリー・ペレスなど、新旧のヌエバ・トローバのシンガーソングライターたちの作品を取り上げている。これらをイサックの特性へポップに繋げた、ホアキン・ベタンクールらアレンジャー陣の仕事も見事ながら、美しい歌と詩へのかつてないほどの大きな情熱を注ぎ込むイサックの姿勢にも、賛辞を呈したい。
 美しい作品と優れた表現者たちが集った、クオリティの高いアルバム。甘さに備わった新たな哀感を武器に己の道を突き進む男40キューバ出身は、またひとつアーティストとしての器を拡げたようだ。
 ところで、ジャケットに雲からしたたる滴があるけど、前述の『OTRA IDEA』のジャケットも滴。意味ありげで気になります。(2002.12 SY)