RALPH THAMAR

Un Jour

2002 [CREON 5806172]
 90年代、特に後半はマリオ・カノンジュのカラーが強かったラルフ・タマールのレコーディング。“スーパー・マリオ”の創り出すジャズ・ビギンと、“カリブ海のクルーナー”のなめらかな歌声が生み出すこの上なく芳香高いサウンドは、何物にもかえがたいもの。このアルバムもマリオ・カノンジュが関わってはいるけれど、仕切はマルティニークのジャズ系ピアニスト、ロナルド・テュールが担当している。ミシェル・アリボ(サキヨ)、ティエリー・ファンファン(グループ・カン)、アレックス・ベルナール(アクースティック・ズーク)、ジャン=マルク・アルビシー(マラヴォワ) ら4人のベーシストの持ち味なんかも出ていて、そそられる興味に事欠かない。
 ラルフ・タマールは度々グアドループ出身の大作曲家、ジェラール・ラ・ヴィニの作品を取り上げている(お馴染みサントリー・ワインCMの「彼女たちの名前」もジェラール作)けれど、オープニングの「RORO」という曲は、昨年(2002)来日した仏領ギアナ出身のシャンソン界の大物、アンリ・サルヴァドールが70年代半ばに録音した曲。ワイルドなトロンボーンと笑い声の入った愉快な原曲とは違い、ゆったりとしたボサノヴァ風味のビギンでカバー。1曲目から既にガツンとしてやられた感じの選曲。
 マリオ・カノンジュのアレンジによる典型的なベレ(ベルエア)「M
ÊT SENSI」。典型的といってもこのモダンな再現のしかたは流石としか言いようがない。ベレの要である数々の打楽器をいじっているのは、予想通りバゴ。彼の仕事ぶりは貴重だし、とても好きなんだけれど、ソロアルバムがどうもイマイチ。そのうちまた作ってね。
 アルバム・タイトルになった「UN JOUR」。マルティニークの民衆音楽のカリスマとして没後も人々に愛される、ユジェーヌ・モナの70年代の曲を、トラッドなビギンで。「VOLCAN」は1902年のペレ山大噴火で壊滅した古都サンピエールを歌ったヴァルス(ワルツ)。またしてもマリオ・カノンジュのセンスが光る「SI TU MANGE」はボサノヴァ。ジョセリーヌ・ベロアール(カッサヴ)&ティエリー・ファンファン作の「MI SE LA」はコンパで。映画音楽(バルドーの『素直な悪女』など)の大家、ポール・ミスラキ(98没)の作品「UNA MUJER」は、ジョアン・ジルベルトのカバーでも知られているけれど、こちらはピアノ伴奏のしっとりとしたスペイン語バラード。バラエティ豊かな曲調とラルフ・タマールの相変わらずの多芸ぶりは、まったく聴く者を飽きさせない。
 耳に引っかかりのある曲ばかり並べたが、間に挟み込まれたジャズ・ビギンは述べることもなく美しいし、スージー・トルボー、ヤニック・ヴォイエールら人気歌手のコーラス参加も、贅沢にしてベストキャスト。
 ズーク色が払拭されたアコースティックな作品。やはり帰るべきところに帰ってきたのだろうか。(2003.01 SY)