HENRI SALVADOR

Dans Mon Ile

2002 [Barclay 065 122]
 近年、カフェ・ミュージックとして日本でも人気のシャンソン界のビッグネーム、アンリ・サルヴァドール。芸能生活70年を越しながら、いまだ現役として活躍する彼のレコーディングは、ボサノヴァやジャズ、ロックンロール、ディズニー・ソング、ラウンジ、コント…と時代やレーベルによって様々な表情をみせるけれど、彼の生まれ故郷である仏領ギアナ周辺のルーツ・ミュージック、即ちマルティニーク産のビギンやマズルカ、トリニダードのカリプソといったアンティーユに転がるリズムを扱ったレコーディングもかなり多くの割合を占めている。マルチな才能の中に“シャンソン・クレオールのアーティスト”としてのアンリ・サルヴァドールの側面に最も引力を感じるのは、決してカリブかぶれのファンだけではないだろう。
 2002年に発売されたこのCD。オリジナルは1958年のバークレイ・レーベルへの移籍直後にリリースされた『MAZURKAS CREOLES - CALYPSOS MARRANTS』と『DANS MON ILE』の2枚のEP盤。アンティーユのリズムに本格的に向き合い、洗練度を高めたまず初めの大きな飛躍ともいうべき時代の(ここで「黄金期」という言葉をあえて使わないのは、1970年代半ばのビギンの典型とも言えるアンサンブルでのレコーディングを、私個人がだいぶ気に入っているため)、100%カリビアン・リズムのレコーディングである。音楽家としてだけでなく文筆家としても著名な、ボリス・ヴィアン(1959没)が作詞の多くを担当しているのも、この時代の大きな特徴だ。
 タイトルにもなっているアンリ・サルヴァドールの代表曲のひとつ「DANS MON ILE(ぼくの島で)」は、アンリ自身の音楽センスにブラジルでの生活が反映されている上、カエターノ・ヴェローゾが81年のヒットアルバムでカバーしたせいか、ボサノヴァのイメージが貼り付いたが、こちらのオリジナルはボレロである。アンリ・サルヴァドールの心のパラダイスは、両親が生まれたグアドループ(父はスペイン系フランス人、母は先住カリブ族末裔)。美しい島に想いを馳せながら、しっとりと歌われる名曲中の名曲。
 軽快なビギン・テイストのカリプソ「MARIANNE」、パーカッシヴなマズルカ「MAZURKA POUR MA MIE」、絞り出すようなブルース・テイストの歌声が印象的なカリプソ「
ÇA PINCE」、もうこのあたりはクレオール魂まっしぐら。続く「MATHILDA」は俳優ロバート・ミッチャムやハリー・ベラフォンテの名唱「MATILDA, MATILDA」でご存知の方もいるのでは。とぼけた風味のカリプソ「JE PEUX PAS TRAVAILLER」や、リラックス・ムードのマズルカ「CECILIA」あたりの曲も、たまらない脱力感。そしてラストの「ROBERT」はアンリのコメディアンとしての狂気がにじみ出た、絶叫のカリプソ。めくるめく変化するアンリ・サルヴァドールの表情豊かな声を聴いているだけでも愉快だ。
 マラヴォワ1992年のアルバム『マティビ』への参加は惜しくも実現しなかったが(マラヴォワ側がボサノヴァ調の曲を用意したのが面白い)、このあたりの世代を越えたエレガントな共演を、ファンとしては大いに実現を期待する。(2003.02 SY)