RALPH THAMAR

Alma y Corazón

2005 [O+ OP112]
 同業者の仕事に関して、あまりネガティブな意見は述べたくはないのだけれど、“カリブ海のクルーナー”ラルフ・タマールのファンとしては、このジャケット・デザインはちょっと脱力だ。
 フィーチャリング・マリオ・カノンジュ──ボレロ集ということもあり、マリオ(p) のいつものジャズ・ビギンでのコンボとは少し異なっていて、ドラムセットはなくラテン・パーカッションの配置。叩いているのはアフリカンドの仕事で知られるパリジャン、ミゲル・ゴメス。もうひとりベースは、マラヴォワやアクスティック・ズークでお馴染み、マルチニークのアレックス・ベルナール。音数を押さえたラウンジ風味の演奏に、時にささやくようなシルキー・ボイスが活きてくる。
 エルネスト・レクオナの「シボネイ」に始まり、プエルトリコの大作曲家ラファエル・エルナンデス作品の数々。「キサス・キサス・キサス」のオスバルド・ファレス作品「三つの言葉」や、フィーリン系のセサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルス「コンティゴ・エン・ラ・ディスタンシア」など、ラテン・クラシックの名曲が並ぶ。しかし、こうしたラテン・シンガーの作品にありがちな選曲だけではなく、やはりフレンチ・カリブならではのピックアップもあって興味深い。
 例えば、#3の「Fe Van」。ここにクレジットされている二人の作家は、ハイチ音楽のファンにピンとくる名前。曲を書いたブロー・バルクールは数年前にアゾールが日本に連れてきた歌手で、ミジック・ラシーンやクレオール・ジャズだけでなく、イボ・コンボやハイシャンドなど、ダンスミュージックの方でもよく知られている人物。歌詞のほうはシト・カヴェ。有名な詩人だけれど、新世代コンパで最も人気のある歌手の一人、アラン・カヴェの父親と言った方が、音楽ファンには分かりやすいか。
 #8の「Pouki」は、エディット・ルフェールが1999年のアルバムで歌っていた曲。当時マリオ・カノンジュはブラジリアン・テイストを残したアレンジで曲を仕上げたが、今回はもちろんまるっきりのボレロ。ブラジル人の作品を御大ジェラール・ラ・ビニがクレオールソング化したもののようだ。
 マラヴォワ時代からずっとラテン・スタンダードに積極的だったラルフ・タマールにとっては、このようなボレロ・カバー集の制作は、長きに温めていたアイデアのひとつだったのかもしれない。(2006.1 SY)