FABRICE ROUZIER &
CLEMENT BELIZAIRE


 ハイチのアコースティックな和み系音楽として、最近にわかに人気のトゥウォバドゥ(twoubadou)。これはまさにキューバでいうところの、作詞作曲能力に優れた吟遊詩人「トロバドール(troubadour)」がクレオール化した言葉。ハイチは行き過ぎた開墾と降水量の少なさによって土地が痩せたために砂糖産業が廃れ、さらに深刻な砂漠化という問題まで抱えている国である。そのため1940年代頃はかなり多くのハイチの農民たちが、対岸の国キューバまで砂糖プランテーションに出稼ぎに出ていたという。トゥウォバドゥは、こうしたハイチ農民たちが、クラーベやトローバなどのキューバ音楽のエレメントをハイチに持ち帰り、コンパ以前に街角で親しまれていた大衆音楽メラングと結びついた音楽。しかしメラングはアメリカの影響からビッグバンド化が進み、その洗練されたメラングも、コンパ(・ジレクト)やカダンス(・ランパ)へと変化を遂げ、ハイチ音楽の中心的な存在に代わっていった。
 現在、日本ではハイチのポピュラーミュージックの流通は滞った状態で、スウィート・ミッキーのようにアルバムを20枚以上もリリースしている人気アーティストでさえその知名度は低く、現在のコンパの中心的アーティストの紹介が、ほとんどなされていないのはとても残念なことだ。トゥウォバドゥの流行は、ジン、ゼングレン、T-ヴァイス、K-ダンス、ジャクール・ミジック他とともに人気のある新世代コンパバンド、ミジック・ミジックのリーダーであるキーボード・プレーヤーのファブリス・ルジエール(フライヤ写真左)と、ギタリストのクレマン“ケケ”ベリザイール(フライヤ写真右)の二人が軸となった「アイチ・トゥウォバドゥ」のヒットが発端となっている。(ファブリスとケケの名前は、ベートヴァ・オバやエムリーヌ・ミシェルらのレコーディングで見たことがある方もいるかも知れない)以後「トゥウォバドゥ」と名の付くアルバムのリリースは後を絶たない状況だ。
Haïtian
Troubadours
(BEANS 717)
Haïtian
Troubadours 2
(BEANS 719)
 しかしこうしたムーヴメントを、当の本人たちはどう思っているのだろう?
 「現在のような状況には私たちも驚いています。始めたときは何も考えず、ただ単に音楽に対する愛情を表現しただけ。これが流行ったことが悪いとは決して思いませんが、ただ量より質の方向に向かっていけば良いと思います。」
 量より質…。確かに流行の波に乗ってリリースされたものの中には、アコースティックなメラングを踏襲していても、トゥウォバドゥの本質を理解しておらず、借り物の音楽がリリースされているのも確かだ。
 彼らがこうした伝統的な音楽に着手しようと思った経緯については。
 「伝統的なコンパを扱ったことにはひとつ理由があります。ハイチには世代観のギャップがあって、古いものを伝えていこうというインフラが整備されていません。ハイチの音楽の豊かさを次の世代へ伝えていく──古いものそのままを伝えるというよりは、大人たち、前の世代の音楽を、若い世代へアピールできるような現代的な形で伝えたかった、ということが目的のひとつにありました。」
 アイチ・トゥウォバドゥの人気のきっかけにはレコーディングとは別に行われた、40人のアーティストの参加によるメガ・コンサートの成功がある。そう、アイチ・トゥウォバドゥには多くの人気アーティストが関わっているわけだが、そのなかでも強烈な個性を放っているのが、トントン・ビシャ。(フライヤ写真右から2人目)
 「トントン・ビシャ?(笑)彼は『I Love You Anne』という映画の登場人物です。本当は26歳だけれど、お爺さんのメイクをしたコメディアンなんですよ。田舎者で女好きでラップ好き。北部訛のお爺さんだけれど、トントン・ビシャ本人も北部のカプ・ヘイシャン出身なんです。」
 爺さんだけど、何か怪しい感じだったわけだ。26歳とは知らなかった。ミジック・ミジックにも参加する、ソロアルバムをリリースしたばかりのグアドループ出身の若き女性サックス奏者、マミーナの発掘も大きいが。
 「いや、私たちが発掘したわけじゃなく、既に仲間内では知られた才能だったんです。ミジック・ミジックが彼女がデビューするための良いプラットホームにはなったと思います。彼女のソロアルバムには残念ながら参加できませんでした。ちょうど『アイチ・トゥウォバドゥ 3』(仏日盤のVOL.2。VOL1はハイチ盤1&2)のレコーディング・スケジュールと重なってしまいました。」
 アイチ・トゥウォバドゥは古い時代のトゥウォバドゥとは違って、ラガ、ラップの要素を多く取り入れたり、あるいはボブ・マーリーの「Turn Your Lights Down Low」とかもカバーしているけれど。
 「レゲエもハイチでは人気のある音楽です。アイチ・トゥウォバドゥのコンセプトやフィロソフィは、ボブ・マーリーとは切り離せないのです。私たちにとってボブ・マーリーは、ジャマイカのトゥウォバドゥですから。」
 実に明快。単にいにしえのアコースティックなメラングをトゥウォバドゥと呼ぶわけではなく、そこには社会批判であれ、愛の喜びであれ、歌い手のメッセージが込められて、初めてトゥウォバドゥと呼ぶべきものなのである。

 「すべての音楽家は皆そうだと思いますが、自分たちのやろうとしていることに際限はありません。昨日よりも今日、今日よりも明日、上を目指しています。理想主義とは違いますが、やってもやってもキリがない。ある誰かに対して上とか下とかいうレベルではなく、自分から出るものを超えていく姿勢です。」
 2004年はハイチ独立200周年の年。ファブリスとケケは、世界の檜舞台のなかでどこまでハイチ音楽を高めていってくれるのだろうか。

2003.4.28 at Tokyu Bunkamura Orchard Hall
Interview & text: Seiji Yamaguchi
Thanks: Latina, Ahora Corporation