KEN MORIMURA

KEN MORIMURA "MILAGRO"
Victor JVC (VICP-62522)
 オルケスタ・デル・ソル、熱帯JAZZ楽団など、様々な日本のトップ・ラテン・グループで鍵盤を叩き、アレンジャーとしても各方面で活躍する森村献。彼名義の新作が早くもリリース。名だたる名楽団を渡り歩き、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブでも知られる、キューバ伝説の大ベテラン・ピアニスト、ルベン・ゴンサレスをフィーチャーした意欲作である。
 このリリースの情報を知ってから実際に音を聴くまで、割合フュージョンちっくなものを予想したり、ビートルズ・カバーにしても初期のラテン臭い曲を選んだのではないかと、勝手な想像を膨らませていたのだけれど、ストリングスの入ったプレリュード、ダンソンやボレロなど優しい曲調が主体になっているのは個人的に意外だった。
「僕の音楽を聞いてくれる人たちというのは、どちらかというと仕事が終わってクラブで踊るというよりも、家で聞いている場合が多いみたいだし、僕自身も年齢相応のものにしたかった。家でCD聴いて踊ってる人っていないと思うんです。やっぱりリラックスして『いいね』と思えるものにしたかったわけです。“カム・トゥゲザー”に関しては、今までビートルズのラテン・カバーも無かったわけではないけど、もっと違ったものにしたかった。“いかにも”という曲はつまらないし、意外性のある曲という理由で“カム・トゥゲザー”を選びました。バタやジャンベを使って遊びのあるアレンジにしたのも、最初からあったイメージです」
 親交のあるルベン・ゴンサレスと共演したトラックについては?
「ルベンと演ったものは、彼にとって馴染みのある曲ばかりです。“スエナ・エル・ピアノ”は彼がエンリケ・ホリンの楽団で百万回も演った曲で、おまけにルベンを讃える曲ですから、これは初めからどうしても演りたかった。ルベンのピアノの魅力?あの世代の有名なピアニストはほとんど死んでしまったけど、彼らこそがスタンダードという自負が感じられます。ルベンもそうですが、みんな彼らならではのフレーズを持っていて、それがふとしたところで水戸黄門の印籠みたいに『どうだ!』と出るわけです。こっちも『あっ、出た!』という感じで。それがまたイイんですよ」
 ところで、ピアニスト森村献自身がサルサ/ラテンに突入するきっかけには、どういう事由があったのだろう。
「それは、実はデルソルだったわけです。ペッカーやゲタ夫やマーティたちとはデルソル以前から知り合いだったけれど、彼らとのセッションが楽しくてね。もちろんそれ以前からサルサは聞いていたけれど、当時それほど感銘は受けなかった。サルサを聞いて好きになったというよりも、彼らとのジャムセッションが楽しくて、それがサルサだったという感じかなあ」
 サルサにおいてピアニストが持つ役割は大きい。パーカッションやホーンのフレーズを弾いたり、歌とのマッチングや演奏全体の舵取り…。そのためピアニストの器は、ダイレクトにアンサンブルの〈面白さ〉に影響を及ぼすわけだが、森村献にとってフレーズの蓄積などはどういったところから吸収してくるのだろう。
「ルンバですね。革新的なルンバ、伝統的なルンバ、ルンバにもいろいろなものがあるけれど、とにかく沢山のルンバを聞くのが好きですね。ルンバはパーカッショニストのものだけではなく、ピアニストにとってもトランペッターにとっても、色々なヒントとなる要素が埋め込まれているわけです。ルンバを知らずに『ラテンってこんな感じじゃん』みたいなものはイミテーションに感じられるし。ルンバのエッセンスがあるかないかというのが命題な気がします」
『ミラグロ(=奇跡)』とタイトルされた最新作。メキシコの荒野、カリブのコロニアルなサロン、アフリカの乾いた大地…。目を閉じて聴いていると、そこに様々な原風景が視界に広がってくる。日本のラテン音楽シーンを牽引する、一人のミュージシャンの豊かな経験がもたらす“ミラグロ”な部分を感じずにはいられない。
※2003年12月8日ルベン・ゴンサレスは、家族に見守られながら永眠に就いた。この『ミラグロ』が彼にとっての最後のレコーディングとなった。

2003.11.13 at Shibuya
Interview & text: Seiji Yamaguchi