MANOLITO SIMONET

MANOLITO Y SU TRABUCO
"Locos Por Mi Habana"
Caramba (CRACD-171)
 約10年ほど前のことだったと思うが、キューバのコンテンポラリー・ミュージックの中心から聞こえてくるものが、とにかくキャッチーなもの、ハイカロリーなものばかりで、味わいや淑やかさが欠乏したこのシーンに、あまり感動を受けなかった時期があった。そうした中、米国西海岸の新興レーベル“ベンベ”からリリースされたアルバム『DIRECTO AL CORAZON』でマノリート・イ・ス・トラブーコの存在を知ったが、そのキューバ音楽伝統のエレガントさの持ち合わせ具合、当時在籍していたロセンド・ディアスの独特な節まわしとコクのある歌声に、すっかり魅入られてしまったことをハッキリ覚えている。
 昨年に引き続き2度目の来日となり、すっかり知名度を上げた彼らだが、公演スケジュールの谷間に、バンマスであるマノリート・シモネーに話を伺うことができた。
 マノリート・シモネーは、バイオリン、フルートが入った伝統的なチャランガ楽団の出身で、トラブーコの場合も、現代的なアプローチを行いながらも、チャランガのアンサンブルを崩していない。こうしたケースはロス・バン・バンを筆頭にキューバには少なくないが、本人はこうした伝統に対して何か特別な意識を持っているのだろうか?
 「チャランガのスタイルは《効果》として捉えている。これはキューバ音楽の伝統に基づいているんだ。『LOCOS POR MI HABANA』(最新アルバム)に典型的なダンソンを収録したことについても、いつも必ず何かトラディショナルなことをやろうと心がけているからなんだ」
 マノリート・イ・ス・トラブーコの場合は以前からコロンビアのリズム“クンビア”も取り入れているけれど。
 「それは、僕らがグループを結成して最初に行ったツアーがコロンビアだったからなんだ。4カ月ぐらいのツアーだったね。クンビアはもちろんコロンビアで人気のある音楽なので、レパートリーに取り入れたんだ」
 この10年ほどの間にシンガー陣の顔ぶれも変わってきているけれど、楽曲とシンガーの組み合わせは、どのように決定しているのだろうか。
 「伝統的な音楽、アメリカの音楽がミックスされたもの、歌手によって曲調に合う合わないがあり、これは重要なポイントなので、一度スタジオで試してから決めているよ」
 ところで、いわゆるサルサやキューバ系のダンスミュージックのバンドリーダーであり、尚かつピアニストであるという人間に、必ず同じ質問をぶつけたくなるのだが、マノリートも初めから触っていた楽器はピアノだったのだろうか。
 「いや、最初はパーカッション。15〜16歳からピアノを始めたんだけれど、パーカッションの要素、トレス・ギターの要素などが合わさった楽器として魅力を感じたから。バンドを指揮したかったんだね。オルケスタをディレクションするにあたって、必ずしもピアノという楽器がベストであるとは言い切れないけれど、自分にとっては様々な楽器の要素を持つものとして、ピアノが重宝だと感じているよ」
 やはり。ウェイン・ゴルベアのインタビューにもあるが、ラテン・ピアニストのディレクターからはよくこうした答えが戻ってくるのだ。
 アレンジャー、コンポーザーとして影響を受けた人物を挙げてもらうと。
 「たくさんいるよ。アダルベルト・アルバレス、ホセイート・ゴンサレス、ラファエル・ライ、チューチョ・バルデス…」
 ミュージシャンを含め、ラテン音楽の愛好家はキューバのトレンドに対して敏感だけれど、キューバのミュージシャンとしては、どういったアーティストに関心を寄せているのだろう?
 「ブラジル音楽とかランチェラとかいろいろ聴くけれど、サルサでいうなら、例えばヒルベルト・サンタ・ロサ、マーク・アンソニー、エル・カナリオ、オスカル・デ・レオンとかも好んで聴くよ」
 「アフリカの音楽、フラメンコ、日本の伝統音楽、オリエンタルなもの…。将来的に様々なジャンルのミュージシャンを招待して、ひとつの作品をまとめ上げてみたい。そうしたフュージョンの中から、また新たなスタイルが生まれてくると思うんだ」
 マノリートのトラディショナリストの側面とアーティストとしての顔がストレートに言葉に現れてくる。こうした広い視野からキューバ音楽を見つめ直し、本来のキモを捉えた音楽が出来上がるのかもしれない。
 「日本のオーディエンスにはいつも感銘を受けているよ。それが流行っているからとかではなくて、いいものとして捉えていることが素晴らしい。歌の掛け合いとか、ライヴでは色々な形でオーディエンスに参加してもらわなければならない。でも、日本のオーディエンスは、それを完璧にこなしてしまうんだ。我々キューバ音楽をやっている人間に限ったことではないけれど、言葉が通じない所でライヴを行うのはなかなか難しい。ところが日本では、まるでキューバでライヴを行っているような感覚にさえなる。音楽を通じて本当にコミュニケーションがとれていると感じるよ」
 識者ファン・デ・マルコスをして「キューバ音楽界若手ナンバーワンのバンドリーダー、アレンジャーだ」と言わしめたマノリート・シモネー。既にティンバ世代随一の広い支持層を持つマノリート・イ・ス・トラブーコは、将来のキューバ音楽の王道を歩んでいくことを保証されたような存在だが、まずはこれまでの力強い助走に敬意を表して「10周年おめでとう」を述べたい。

2004.8.12 at Shibuya Renoir
Interview & text: Seiji Yamaguchi
Thanks: Ahora Corporation