ROBERTO SUGIURA

ROBERTO SUGIURA "YO CANTO BOLEROS"
Música Robertíco (MR-0069)
 タンゴ&ボレロ歌手、ロベルト・杉浦による本格的なボレロ・アルバムのリリース。サルサ界でよく知られるベテラン・トレス奏者、ネルソン・ゴンサレスのプロデュースということは、前情報として知っていたけれど、いざCDを聴いてみると、そのクオリティの高さには正直舌を巻いた。
 ボレロという音楽は、ラテン/カリブの陽気でダンサブルな音楽を好んで聴く者にとっては、オトナのフォーマルな音楽という印象からか、ともすると敷居をまたぐのに躊躇しがちだったりするのだけれど、このアルバムの間口の広さと懐の深さは、ボレロというジャンルに人々を惹きつける十分な魅力を兼ね備えている作品といえるに違いない。
 ロベルト・杉浦の歌は、それを歌っているのが日本人とは思えないような、耳あたりの良い滑舌が魅力だけれど、そのスペイン語の発音はどこで習得したのだろう。
 「私は元々タンゴの歌手としてスタートしました。タンゴの世界というのは、スペイン語のイントネーションに非常に厳しい世界で、細かなチェックが入るわけです。そうした経験が自身につながりました。」
 タンゴ歌手、ロベルト・杉浦がボレロを歌うようになった経緯というのは?
 「子供の頃にタンゴを聞き始め、18歳でプロとして楽団で歌うようになり、大学を卒業したときに今までのキャリアがどう評価されるかと思い、何のつてもなくアルゼンチンに渡りましたが、向こうでの評判も良く、帰国して日本の様々なタンゴ楽団で歌うようになりました。1987年のことだったと思いますが、アルゼンチンでのレコーディングの帰りにコロンビアに立ち寄ったんです。そこで、ある家庭で流れていた音楽がとても魅力的で、それがボレロであることを初めて知りました。ベネズエラのアルフレッド・サデルの曲でした。それ以降ボレロにはまっています。」
 ところで、この新作『YO CANTO BOLEROS』。歌や楽曲は勿論のことだが、演奏に加わっているミュージシャンのことも気になる。なかでもバイオリンの音は一聴しただけでも、その艶のある見事な演奏からタダモノでないことが理解できるだろう。
 「バイオリンですか?バイオリンは、サルサ〜ラテン音楽を弾かせたら彼がナンバーワンと言われる人物にお願いをしています。彼はウルグアイ人なんですが、タンゴの楽団でも弾いていた、という面白い経歴の持ち主です…。」
 話を伺っていて分かったことけれど、どうやらフェデリコ・ブリトス(レビューページ参照)が担当しているようだ。なるほどラテン音楽界の最高のバイオリン奏者だ。尚、トレスのネルソン・ゴンサレスの他、ピアノにアルトゥーロ・ファリル、ベースにアンディ・ゴンサレス、フルートにマウリシオ・スミス…といった、強力な布陣が演奏を担っている。凄いの一言。
 ネルソン・ゴンサレスとは仲の良い友人とロベルト・杉浦は言う。この名トレス奏者と知り合ったきっかけというのも気になるところ。
 「ダニー・リベーラに会いにプエルトリコに行ったとき『ようし、食えるようにしてやる』って言われたんですけど、実際の彼は歌うこと以外何もできないような人物で、そのとき『ホテルなんかに泊まるんじゃ勿体ない。友人のアパートだと安いから』といって紹介されたのが、ネルソン・ゴンサレスのアパートの一室だったわけです。」
 ロベルト・杉浦は精力的にラテンアメリカ諸国でのフェスティバルやリサイタル、あるいはテレビ番組などに出演し、現地で高い評価を得てきた人物。日本人にとってはオーバーアクションに思えるコミカルな仕草も、現地では恐らく人気となっているのだろう。しかしラテンアメリカでのボレロの客層というのはどういったものなのだろう?
 「キューバは印象が違いますね。若い人もボレロを聴きます。」
 本場のビッグネームとの共演経験も多いとは思うが、共演してみたいアーティストを尋ねると意外なアーティストの名前を口に出した。
 「自分のやっている音楽とはちょっとズレちゃうとは思うんですが、エディ・パルミエリです。できっこないと思いますけど、彼のあんな凄い音楽のなかで、歌えたらと思うんです。ネルソン・ゴンサレス、ダニー・リベーラは仲の良い友人で、ネルソンは招待したので、今度はダニー・リベーラを日本に呼びたいですね。ダニー・リベーラとはドミニカ共和国、プエルトリコ、キューバで共演したことはあります。」
 最後にロベルト・杉浦にとってのボレロの魅力を語っていただいた。
 「ああいったメロディが綺麗に浮き立つようなテンポですから、歌い手の声の表情なんかも微妙に表現できるところですかね。何とも言えない大人のロマンティックな踊りの中で、高らかに歌われる愛…そういったこともボレロの聞き所なんじゃないでしょうか。」

 2004年にはチリでも新作がリリースされるという。クンビアやメレンゲなどのダンサブルなリズムが収録されているということ。タンゴ、ボレロといったジャンルを超えて、ロベルト・杉浦の新展開がワールドワイドにスタートする。なんともワクワクするような話ではないか。

2003.9.13 at Ikebukuro
Interview & text: Seiji Yamaguchi