SAMUEL FORMELL (LOS VAN VAN)

 8月の来日ステージで、新旧のファンを熱狂の渦に巻き込んだ、ファン・フォルメル率いるロス・バン・バン。音楽的なイニシアチブは、もちろんファン・フォルメルにあるのだが、バンド・リーダーとしての役割は、息子でありドラマーのサムエル・フォルメルに委ねられている。
 ファン・フォルメルと共にソンゴのリズムを確立した、名手チャンギートことホセ・ルイス・キンターナの後任として重席を任された若きサムエルも、既に38歳。いつの間にか、二代目若旦那から、バンドを切り盛りする大将に相応しい年齢となっていたわけだ。
 さて、ベース奏者であり、特にメロディ・メーカーとして世界的に高い評価を得ている父親を持ちながら、何故サムエルは打楽器奏者への道を選んだのだろうか。そんな質問からインタビューを開始した。
 「自分が音楽を始めたのは、12歳の頃なんだ。でも、ロス・バン・バンが結成されたのが3歳の頃だから、幼い頃からバン・バンを聴く環境にあったわけなんだ。キューバ人にとって、打楽器は一番身近な楽器だけど、いつもチャンギートが演奏する音が心に残っていた。それが一番の理由かな」
 ということは、影響を受けたミュージシャンを挙げるなら、チャンギートということになるのかな?
 「いろいろなところから影響を受けたと思う。何かの衝撃によって自分のスタイルが大きく変化した、というようなことはないけれど…。8年間音楽学校で打楽器全般を学ぶなか、キューバ音楽はもちろんのこと、クラシックやロック、様々なものを聴いてきた。イサック・デルガドのグループで3年、ロス・バン・バンで11年余りになり、現在のような自分なりのスタイルを確立してきたわけだけど、いつも手本となっていたのは、チャンギートなんだ」
LOS VAN VAN
"En El Malecón
De La Habana"
LOS VAN VAN
"Live in Puerto Rico"
LOS VAN VAN
"Chapeando"
 2003年にリリースされた、ハバナでのライヴを収録したアルバム『En El Malecón De La Habana』を聴いて頂けると理解できると思うが、特にヒット曲「Te Pone La Cabeza Mala」あたりのドラミングは結構体力を使うに違いない。フィジカルな部分で気を遣っていることはあるのだろうか?
 「おっしゃる通り。とても体力を使う。記憶に一番残っているのは、プエルトリコで3時間50分演ったこと。演奏後に体重が2キロ半落ちたんだ。それをきっかけに、身体を鍛えておくことが大事であることに気が付いた。長いツアーの前には、ジムに通って準備しているよ。ランニングも欠かさないね。あと、ライヴで疲れるのは腕とかよりも頭なんだ。演奏のバランスを考えて、メンバーに合図を送ったり、神経をとにかく使う。最近ではヨガも始めたよ」

 サルサに代表されるコンテンポラリー・ラテンの演奏家は、世界各地に多く存在するが、新しいことをやっていても、バイオリンやフルートを取り入れた、チャランガ・アンサンブルを踏襲する例が多いのは、キューバのダンスミュージック・シーンならではの傾向のひとつだ。
 「そうだね。チャランガは簡単なんだ。バンドを始めようとするとき、最も簡単に編成できるスタイルなんだ。でも、バン・バンをチャランガ・バンドのひとつとして呼んでほしくはない。他とは異なることを35年やってきたバンドなんだ」
 「自分の可能性を拡大するために、常に様々なプランを頭に置いている。バン・バン以外にバンドを作る、ということではなく…。自分が所属する楽器メーカーも、新たなサムエル・フォルメルの側面を打ち出したいと。バン・バンはダンス・バンドだけど、何かもっと聴いて楽しむような、インストルメンタルのレコーディングなんかを計画している。まだ具体的には何もスタートしてないけどね」
 気づいている方も多いと思うが、2005年に入ってバン・バン以外のリリースの中に、サムエルの名前がクレジットされているレコーディングが増えてきている。バン・バンのフロントであるマジートのセカンド・ソロ。チャングイからティンバまで、ソン周辺の魅力を余すところ無く伝えるソネーロス・オールスターズ。ラテンジャズのセスト・エレメントなど。サムエル・フォルメル自身が今後どのようなシーンで活動するのか楽しみだが、それがトレンドリーダー、ロス・バン・バンのリズムにどう影響していくのかも、非常に興味がそそられるところである。

 最後にキューバでも流行中のレゲトンについて。
 「ラテンアメリカだけでなく、ヨーロッパでも流行ってるね。でも2〜3曲でもういいって感じ。何も新しいものは感じないしね。耳障りな音だ。すぐに無くなるんじゃない?」

2005.8.9 at Embassy of The Republic of Cuba
Interview & text: Seiji Yamaguchi
Thanks: Ahora Corporation, Tiempo Iberoamericano