WILLIE NAGASAKI

 ボタンを3っつぐらい外したシャツの襟をジャケットから出し、ビシッとキメキメのイデタチでステージに陣取る。ニューヨーク・ラテンのミュージシャンの典型的なファッション・スタイルで、かつてのサルサのバンドマンたちは、皆んなこうしたセミフォーマルな装いがトレードマークだったはずだ。ファッションだけでなく、ニューヨーク・ラテンのベーシック・スタイルをこよなく愛し体現しているのは、ブロンクスのハードコアなラテンジャズ・シーンをくぐり抜け、“キング・オブ・ティンバレーロ”故ティト・プエンテの弟子にして、日本が誇るラテン・パーカッションの第一人者である、ウイリー・ナガサキ。セッション・プレーヤーとして長年この国のシーンに貢献する彼が、ラテンジャズ・アルバム『Camino Sobre El Mar 〜海上の道』をリリースした。「ブロンクス・パーカッション・スクール」を主催し後進の指導にも当たる彼の、意外にもこれが遅蒔きの初リーダー作となる。
 「何しろナマケモノでして…。ラテンジャズに関して言えば、サボール・パランテというグループを中心にスモール・コンボで長年地道にやってきたことが、今回のプロデューサーである中村とうようさんを動かし、この2004年の先端的なハイブリッドディスクでのリリースという素晴らしい結果を生みました。嬉しい限りです」
 アルバムの内容は、最近ジャズ・シーンで再燃し始めているクンビアのリズムがあったり、ティンバレス・ソロが炸裂するマンボ、あるいはティピカルなルンバや、マルチニークのカリのボンバ・アレンジ他、アフロ・カリブのバラエティ豊かなリズムが散りばめられている。
 「今回は中村とうようさんの〈海上の道〉という、カリブ海のリズムへのトリビュートという企画になっています。そうした理由でカリとかもピックアップして、色々なことをやっています」
 個人的なお気に入りを述べさせていただくと、“ディアブロ”という曲。エレキ・ギター、ハモンドオルガン、ドラムスなどが入るロック・テイストの強い曲で、ブーガルー全盛期のブロンクスっぽい味わいを感じさせる。
 「元々作曲した当時は、タイトルにブロンクスというのを付けていたんですよ。自分の原点にあるようなスタイルで、私にとってもファースト・アルバムですし、自己紹介のような感じで無理を申して入れさせていただきました」
 本人にとってアルバムの聴き所、注目してもらいたい部分は?
 「自画自賛してはおかしいんですが、音色的においても演奏においても素晴らしい出来になっています。現在のテクノロジーが発達した時代にも関わらず、すべて差し替えなしの一発録りです。ダイナミックなサウンドの中にある自分の気持ち、ソウルな部分が伝わってくれればと思っています。曲で言うと、おっしゃっていただいた“ディアブロ”とかは、特に今の若い人たちに聴いてもらいたいし…。あと“ポンセ”もプエルトリコの町をタイトルにしたノロ・モラレスの代表曲であると同時に、実はプエンテともうひとり私の先生であるマニー・オケンドの故郷でもあるので、思いのある曲です」
 ティンバレス奏者として知られるウイリー氏は、実際にはあらゆるラテン・パーカッションを受け持つユーティリティ・プレーヤーでもあり、今作品のルンバ・ナンバー“マランガ”ではキント(主に即興を担当する、ピッチの高いコンガ)を担当している。
 「実は私、コンガのほうが先なんですよ。ローカルなところでハコバンやってるときにコンガを叩いてました。“マランガ”は演ってるときは意識しませんでしたが、結果的に何かニューヨーク風味のルンバを感じさせるものになりました。ジェリー(・ゴンサレス)たちがやってるような。正直な話、この曲が一番苦労しました」

"海上の道"
Sony Music
 ティト・プエンテ、マニー・オケンドを師と仰ぎ、アルバムの大部分も半世紀ぐらい前の古典を取り上げている彼に、下の世代で印象に残るミュージシャンを尋ねてみると。
 「とにかく怠慢でして、あまりチェックしてないんですよ。そうですね…、行けなかったですけど、昨年来日したオスカル(・エルナンデス)たちのスパニッシュ・ハーレム・オーケストラとかは応援したい気持ちはありますね。自分より若いミュージシャンだと、昔ジェリーが急遽出られないということで、ピンチヒッターとして加わった若者が印象に残ってます。修行時代のマーク・キニョーネスです」
 スパニッシュ・ハーレム・オーケストラの公演では、今まで気にしていなかったプレーヤーだが、ティンバレスのパブロ“チーノ”ヌニェスが実直なプレーで気持ちのいい音を刻んでいたけれど。
 「よく知らないんですが、坊主頭のガタイのいい奴ですか?LPのカタログで見たことがあります。今度チェックしてみます。確かに言われるように、ティンバレスは実直さが必要な楽器だと思います。その点、私みたいにフザケた人間は失格ですね。金物使ってリズム・キープするわけですから神経質な楽器だと思います」
 「今後やってみたいことですか?ティト・プエンテやマニー・オケンドたちとの共演も果たし、夢はいろいろ叶えられました。考えると様々なことは膨らみますが、ニューヨークの友人たちをこっちに呼んで、一緒に演りたいですね。一昨年前にラテン・ハーレムでジョニー・ロドリゲスを呼んだように、ラリー・ハーロウとか、あとレイ・バレットなんていうのもいいですね。大きめのホールでも良いですし。受け入れ側だけの問題で、みんな声をかければ気軽に来てくれます」
 ティンバレスという楽器はパーカッションのなかでも、音粒がハッキリしているだけにゴマカシの効きにくい楽器だ。たった二つの太鼓だけだし、おまけに確立されたキューバン・マナーもあるので、個性を主張するのも難しいに違いない。ウイリー・ナガサキというアーティストは、卓越したテクニックとセンスはもとより、確固とした独自のスタイルで明快なコンセプトを聴き手に伝えることの出来る、数少ないミュージシャンである。是非このアルバムを聴いてトップ・プレーヤーの実力のほどを確かめていただきたい。
 「サルサと呼ばれているものは、それ以前のマンボやチャチャチャなどの音楽を受け継ぎ、それらとベーシックな部分では何ら変わりのない音楽です。このアルバムの楽曲も、じっくり聴いていただけることは勿論のこと、ダンスの好きな方にも受け入れられるものと自負しています」

2004.3.3 at Shibuya
Interview & text: Seiji Yamaguchi